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【2ch】世にも奇妙なニートの物語 第4話『無職を減らす方法』

更新日:

「世にも奇妙なニートの物語」
2chでおもしろいと絶賛されたID:UcMrseUd0さんの作品。
http://hayabusa.2ch.net/news4vip/kako/1360/13605/1360581143.html
ニートをテーマにした4作からなるオムニバス形式となっています。

 
扉を開こうと、懸命に扉を押し続けるタモリ。
タモリ「う~ん、う~ん……」グッ グッ…
タモリ「開かない……」ハァハァ
タモリ「スポーツや仕事、勉強、日常の仕草にいたるまで」
タモリ「どんなことにも必ずそれに適した方法、というものがあります」
タモリ「引いて開けるタイプのドアを、いくら押しても開くことがないように……」グイッ
ガチャッ……
タモリ「でも、あなたの知っているその方法」
タモリ「本当に一番適しているんですかね?」

 

第4話 『無職を減らす方法』

 
ザッ……
職員(俺は行政から委託を受けているニート更生センターの職員だ)
職員(これまでに何人ものニートの更生……ようは就業を手伝ってきた)
職員(正直いって、ニート更生のプロフェッショナルだと自負している)
職員(さて今日のニートは、と……)
職員(一軒家に一人暮らしとは)
職員(こりゃまた、ずいぶん恵まれたニートがいたもんだな)
ピンポーン……
職員「こんにちは~」
ニート『……はい』
職員「先ほどお電話させていただいた、ニート更生センターの者ですが」
ニート『あ、すぐ開けます』

 
< ニートの家 >
職員「はじめまして」
ニート「どうも」
職員「私ども、ニート更生センターは」
職員「働けていない若年層の就業を手助けすることを使命としております」
職員「こうした訪問業務や、職業訓練、就職先の紹介、などを行っております」
職員「本日は、あなたも現在定職についていないということで」
職員「我々でなにか力になれることがあれば、と訪問させていただきました」
ニート「そうですか」
職員(普通はアポを取る時点で門前払いされたり)
職員(なんとか顔を合わせても、露骨に煙たがれるもんだが)
職員(人当たりもいいし、今までにないタイプのニートだな……)
この日は込み入った話はせず、簡単にニート更生センターの説明をするだけで終わった。

 
職員(ニート更生というのも、つまるところセールスマンと同じだ)
職員(何度も何度もお客のところに通い詰め)
職員(信頼を得て、半ば友人同士のような関係を築き上げ)
職員(話を聞いてもらえるようになったところで本題に入る)
職員(すなわち、労働の必要性をあの手この手で説く)
職員(人々の役に立つことの尊さ!)
職員(独力で金を稼ぐことの素晴らしさ!)
職員(働かないことによって生じるリスク!)
職員(無理強いでは、しょせん長続きしないのだ)
職員(これで俺は今まで100人以上のニートを社会復帰させてきた)
職員(今回のニートもこれで復帰させてみせる!)

 
それからというもの、職員は何度もニートの家に通った。
職員(人の役に立つことの尊さ!)
職員「苦労して仕事につけた人の笑顔を見ると、この仕事やっててよかったと思うね」
ニート「なるほど」

職員(金を稼ぐことの素晴らしさ!)
職員「正真正銘自分で稼いだ金で食ったメシってのは、やっぱり味がちがったよ」
ニート「ふむふむ」

職員(リスクを訴える!)
職員「年金もあてにならないし、相続税も増えたし、やはり蓄えは自分の手で……」
ニート「勉強になります」
会話自体は弾むのだが、ニートの心が動く気配はなかった。

 
< ニート更生センター >
職員(──ダメだ!)
職員(なにいっても働こうとしねえ!)
職員(俺の話をうんうん聞いてはいるんだが、心がまったく動いてない!)
職員(なんというか、働くって選択肢がハナからないって感じだ)
職員(大抵のニートは心のすみっこに選択肢ぐらいはあるもんなんだが……)
職員(なにせ、家も金もあるからな……どうせ親の力だろうが)
職員(こうなりゃ意地だ!)
職員(なんとしても奴を就職させてみせる!)
所長「お、おいおい……珍しく苦戦しているようだから、気持ちは分かるが」
所長「あまり一人のニートに入れ込むなよ」
所長「国や自治体から課せられてるノルマもあるんだからな」
職員「……分かってますよ。我々はしょせん下請けですからね」
職員「ところで所長、ひとつ提案があるんですが」
所長「ん?」

 
< ニートの家 >
職員「なぁ……」
職員「たしかに君はお金もあるようだし、働く必要がないってのは分かる」
職員「俺だって、もし君の立場だったら働いてなかったかもしれない」
職員「だけどこうして何度も話してて分かったが、君は社会性ある人間だ」
職員「だからさ……」
職員「俺のいるニート更生センターでバイトみたいな形で働いてみないか?」
職員「ちょうど俺の部署に欠員が出たとこでさ、すでに許可も取ってる」
ニート「…………」
職員「毎日家にいるのも暇だろうし、どうだろう?」
ニート「……分かりました。そこまでしてくれたのであれば」
ニート「バイトであれば……大丈夫かもしれません」
職員(よし!)

 
こうして、職員はニートをバイトとして雇いいれた。
職員「今さら説明の必要もないかもしれないが」
職員「俺たちの仕事は、就業していない若者を説得し、就業させることだ」
職員「当然相手によって対応は変わるが、あえてコツがあるとすれば」
職員「押しつけずに、なおかつ焦らせる、ってことかな」
職員「ま、君はあくまでバイト待遇だ。ノルマもないし、気楽にやってくれよ」
ニート「分かりました」
そして──

 

 
所長「いやぁ、すごい!」
所長「まさか今月だけで、50人以上のニートを就職させるとは!」
ニート「ありがとうございます」
職員(なっ……!?)
所長「それにしても、こうなると──」
所長「もう他の訪問役はいらないな。君一人で足りてしまうよ」
所長「君よりも実績がないのに、君より給料をもらっているというのも妙な話だ」チラッ
職員(そ、そんな……)

 
この日を境に、職員は露骨に冷遇されるようになった。
訪問役を外され、裏方の仕事に回された。
このニート更生センターという狭い社会において、それは左遷を意味する。
ほとんど退職しろといわれているようなものだった。
職員(この扱いですら、一応温情が入ってるんだろう……)
職員(俺より成績が悪かった連中は、実際退職させられてるし……)
職員(俺が裏方に回った結果、今まで裏方にいた人たちを何人か押し出す形になった)
職員(恨んでるだろうなぁ……)
職員(まさか……こんなことになるとは……)

 
ところが──
職員「お呼びですか、所長」
所長「こうして君を呼んだのは他でもない」
職員(い、いよいよ俺もクビ、か……!?)ゴクッ…
所長「君にはまた、訪問役についてもらう」
所長「他にも、彼の影響で退職した人間も可能な限り呼び戻すつもりだ」
職員「へ……!?」
職員「あ、あの……彼は? ニートの彼はどうなったんですか?」
所長「ああ……彼は辞めたよ」
職員「えぇっ!?」
職員(俺の知らない間に、いったい何があったんだ!?)
職員(とにかく一度……彼の家に行ってみるか!)

 
< ニートの家 >
ニート「ご心配をおかけして申し訳ありません」
ニート「わざわざ訪ねて下さるなんて……」
ニート「あなたが前に私に語ってくれた使命感は、ホンモノだったようだ」
職員「そんなことはどうでもいい」
職員「どうして辞めたんだ!?」
職員「悔しいが、君は俺なんかより、ずっとずっと優秀だったじゃないか!」
ニート「泣きつかれたんですよ。お願いだから、と」
職員「泣きつかれたって……まさか所長に!?」
ニート「はい」
職員「もうなにがなんだか……さっぱりだ」
ニート「……せっかくですから、あなたには本当のことをお話ししましょう」
ニート「ただしくれぐれも他言無用でお願いします」

 
ニート「両親は早くに亡くなったので……私にも人並みに働いていた時期がありました」
職員「…………」
ニート「ある会社の営業マンとして──」
ニート「ある工場の作業員として──」
ニート「私は一人で何十人分もの実績を出したり」
ニート「あるいは何十人でこなす工程を一人でできるよう、改良したりしました」
ニート「結果として、私は多くの仲間を不要な人材にしてしまったのです」
ニート「そして、同僚から疎まれ……」
ニート「上司には喜ばれるどころか不気味がられ……会社を辞めました」
職員「つ、つまり君は……働けば働くほど、失業者を増やしてしまうってことか」
ニート「そういうことになるのかも……しれません」
職員(実際、俺もなりかけたしな……)

 
職員(企業や団体にとって、優秀な人材はもちろん重宝されるが)
職員(度が過ぎて優秀すぎる人材は、平凡な仲間を淘汰し)
職員(時として上司の無能さをあらわにする爆弾にもなる)
職員(だから、彼はどんな組織にも馴染むことができなかったんだ)
職員(ウチだって例外じゃない)
職員(今すぐにでも自分の座を脅かすような人間の登場に、所長は焦っただろうし)
職員(仮に彼がその優秀さで全てのニートを更生させたら)
職員(もうウチはいらなくなるんだ……)
職員「最後に聞きたいんだけれど」
ニート「はい」
職員「ご両親がお亡くなりになったってことは……」
職員「君の生活費やこの家は、いったい誰が……?」

 
ニート「国です」
職員「!?」
ニート「まだ私がニートでない時、国のいわゆるお偉い方々と会う機会がありまして」
ニート「これはいい機会だと、私は自分の考えるこの国をよくする方策を話したんです」
ニート「すると彼らは青ざめ──」

 
『ハ、ハハ……まさか君のような人物がいるとはな』
『まったく、君のような人間がいると世間に知れれば』
『世は我々の無能をあざ笑うことだろうよ』
『今後の君の衣食住は我々が力を合わせて保障する』
『だからもう君は、働かないでくれたまえ。いいね』

ニート「──と」
職員「…………」

職員「ちなみに……誰にもいわないから教えてくれないか」
職員「君はどんな方策を話したんだ?」
ニート「……分かりました。あなたなら、いいでしょう」
ニート「組織を去った私をこうして訪ねて下さったのは、あなただけですから」
……
……
……

 
職員(まったく驚かされた)
職員(もし彼が政治の表舞台に立てば)
職員(国民は彼を熱烈に支持するだろう)
職員(……というより今までのトップ集団は何やってたんだ、となるだろう)
職員(そしてもう彼一人でいいんじゃないかな、となるに決まってる)
職員(それほど彼の話してくれた内容は、画期的だった)
職員(知ったところで、俺如きではとても実行できそうにない。やはり彼でなければ……)

 
< ニート更生センター >
職員「じゃ、行ってきます」ザッ
所長「うむ。君は、今月はすでに二人も職につかせておる、順調だな」
職員「…………」

 
職員(あれから俺は以前と変わらず、ニート更生センターで働いている)
職員(辞めた仲間も呼び戻され、ほとんど戻ってきた)
職員(あのニートとは、もう会っていない)
職員(もちろん、彼が話してくれたことは固く胸の内に封じてある)
職員(そして俺は働きながら、時折ふと思うのだ)
職員(俺……いや俺たちがこうして職にありつけているのも……)
職員(彼がニートでいてくれているからではないか、と)

 
~おわり~

 
タモリ「働けば働くほど、人々の職を奪ってしまう」
タモリ「もし彼が本格的に働いてしまったら、世は失業者だらけになるかもしれません」
タモリ「──え、なんですか?」
タモリ「…………」
タモリ「え? 次回からはもう私がストーリーテラーじゃなくていい?」
タモリ「しかも、他の番組も全部降板してくれですって?」
タモリ「……どうやら彼のような人物が働き始めてしまったようですね」
タモリ「ですが大丈夫、すぐ私も元のサヤに収まることになるでしょう」
タモリ「優秀すぎる人間が疎ましがられる。これは私がいる業界も例外では──」
タモリ「おっと、危ない危ない。失言するところでした」
タモリ「では今宵はこれにて」

 
 ~ 世にも奇妙な物語 ニートの特別編 おわり ~

 
第1話 『俺だけの才能』
第2話 『ゴキブリ』
第3話 『家事手伝い』

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